好ましい生活習慣とエビデンス

 

 インターネットや書店の医学書コーナーで見かける情報の中には、誤った内容が平然と広がっていることに驚かされます。

 以下の情報は、特定の生活習慣を強制するものではありません。自分に合った無理のない生活習慣を選んで、心と体の健康を気を配ってみてください。医療従事者だけでなく、誰もが正しい情報を知る権利があると考えています。

 皆さんがなるべく幸せでいられるように、そして不幸になってしまった人にはその苦しみを軽減するために、精神科医は存在しています。

 

 なお、「メンタルが辛くなるのは初めての経験でどうしたらいいか分からない」という方は、当センターが監修した「こころの情報サイト」で様々な心の病気の基本的な情報をまとめていますので、どうぞご覧ください。



野菜・果物(ほぼ確実にリスクを下げる↓)

Saghafian F, Malmir H, Saneei P, Milajerdi A, Larijani B, Esmaillzadeh A. Fruit and vegetable consumption and risk of depression: accumulative evidence from an updated systematic review and meta-analysis of epidemiological studies. Br J Nutr. 2018 May;119(10):1087-1101. doi: 10.1017/S0007114518000697. PMID: 29759102.

〈ひとこと紹介〉野菜・果物とうつに関してはいくつかのメタアナリシスが出ていますが、恐らくこちらの論文が一番クオリティが高いです(2024年7月現在)。コホート研究・横断研究それぞれに対してメタアナリシスを行っており、いずれもうつのリスクが低下するという結果でした。

 

Narita Z, Nozaki S, Shikimoto R, Hori H, Kim Y, Mimura M, Tsugane S, Sawada N. Association between vegetable, fruit, and flavonoid-rich fruit consumption in midlife and major depressive disorder in later life: the JPHC Saku Mental Health Study. Transl Psychiatry. 2022 Sep 26;12(1):412. doi: 10.1038/s41398-022-02166-8. PMID: 36163244; PMCID: PMC9512814.

〈ひとこと紹介〉手前味噌ですが自分の論文です。他の論文と違う点として①日本の一般住民を対象としていること②うつ病の診断は全て精神科医の診察によって確実に行われたことの2点が挙げられます。特に果物を多く摂取している人ほどうつ病になりにくいという結果でした。

 

野菜・果物の「効果」とうたうべきかはさておき、野菜・果物を食べている人の方がうつになりにくいのは様々なデータから間違いなさそうです。


魚(リスクを下げる可能性あり↓)

Li F, Liu X, Zhang D. Fish consumption and risk of depression: a meta-analysis. J Epidemiol Community Health. 2016 Mar;70(3):299-304. doi: 10.1136/jech-2015-206278. Epub 2015 Sep 10. PMID: 26359502.

〈ひとこと紹介〉コホート研究と横断研究両方を含んだメタアナリシスで、いずれの解析でもうつのリスクが減少という結果でした。ただしこれらの傾向はヨーロッパや南米で強く見られ、アジアではそうでもなかった点から更なる研究が必要と考えられます。

 

全体としてはうつに予防的に働きそうなものの、人種によってばらつきなどもあるため「可能性あり」とやや保守的な評価としています。


肉(どちらとも言えない)

Dobersek U, Wy G, Adkins J, Altmeyer S, Krout K, Lavie CJ, Archer E. Meat and mental health: a systematic review of meat abstention and depression, anxiety, and related phenomena. Crit Rev Food Sci Nutr. 2021;61(4):622-635. doi: 10.1080/10408398.2020.1741505. Epub 2020 Apr 20. PMID: 32308009.

〈ひとこと紹介〉様々な研究デザインを含んだシステマティックレビュー。「肉を食べないこと」の効果を調べており興味深いです。肉を食べない人の方がうつの有病率が高い、という傾向がありつつも結果は混在していました。

 

Li Y, Lv MR, Wei YJ, Sun L, Zhang JX, Zhang HG, Li B. Dietary patterns and depression risk: A meta-analysis. Psychiatry Res. 2017 Jul;253:373-382. doi: 10.1016/j.psychres.2017.04.020. Epub 2017 Apr 11. PMID: 28431261.

〈ひとこと紹介〉コホート研究と横断研究が混在したメタアナリシス。肉単体というよりは食事パターンの研究がメインです。赤い肉(豚肉・牛肉)や加工肉がうつに関連するという結果でした。

 

Sánchez-Villegas A, Delgado-Rodríguez M, Alonso A, Schlatter J, Lahortiga F, Serra Majem L, Martínez-González MA. Association of the Mediterranean dietary pattern with the incidence of depression: the Seguimiento Universidad de Navarra/University of Navarra follow-up (SUN) cohort. Arch Gen Psychiatry. 2009 Oct;66(10):1090-8. doi: 10.1001/archgenpsychiatry.2009.129. PMID: 19805699.

〈ひとこと紹介〉地中海食のインパクトを調べた有名なコホート研究ですが、肉についても調べていました。結果は残念ながらうつのオッズを上げるというものでした。

 

Okubo R, Matsuoka YJ, Sawada N, Mimura M, Kurotani K, Nozaki S, Shikimoto R, Tsugane S. Diet quality and depression risk in a Japanese population: the Japan Public Health Center (JPHC)-based Prospective Study. Sci Rep. 2019 May 9;9(1):7150. doi: 10.1038/s41598-019-43085-x. PMID: 31073185; PMCID: PMC6509323.

〈ひとこと紹介〉こちらは一般住民を対象としたコホート研究です。白い肉(鶏肉)は赤い肉(豚肉・牛肉)と比べてうつのオッズが低くなるという結果でした。

 

結果が一貫しないので論文を多めに載せました。解釈が難しいですが、総合すると赤い肉(豚肉・牛肉)は悪そうにも見えるけど白い肉(鶏肉)はそうでもないかも、という傾向で一概に結論づけるのは難しそうです。


甘味飲料(ほぼ確実にリスクを上げる↑)

Hu D, Cheng L, Jiang W. Sugar-sweetened beverages consumption and the risk of depression: A meta-analysis of observational studies. J Affect Disord. 2019 Feb 15;245:348-355. doi: 10.1016/j.jad.2018.11.015. Epub 2018 Nov 6. PMID: 30419536.

〈ひとこと紹介〉横断研究とコホート研究を含んだメタアナリシス。甘味飲料でうつのオッズが上昇し、かつ逆の結果を示す研究が1つもないという結果でした。

 

Narita Z, Hidese S, Kanehara R, Tachimori H, Hori H, Kim Y, Kunugi H, Arima K, Mizukami S, Tanno K, Takanashi N, Yamagishi K, Muraki I, Yasuda N, Saito I, Maruyama K, Yamaji T, Iwasaki M, Inoue M, Tsugane S, Sawada N. Association of sugary drinks, carbonated beverages, vegetable and fruit juices, sweetened and black coffee, and green tea with subsequent depression: A five-year cohort study. Clin Nutr. 2024 Jun;43(6):1395-1404. doi: 10.1016/j.clnu.2024.04.017. Epub 2024 Apr 17. PMID: 38691982.

〈ひとこと紹介〉手前味噌ですが自分の論文。日本人9万5000人を対象としたコホート研究で甘味飲料だけでなく炭酸飲料・野菜および果物ジュースでうつのリスクが上昇するという結果でした。かなり厳しめにバイアスの調整を行っても明らかなリスク上昇が見られました。

 

データ上、反証する研究が全くでてきていないことからも、甘味飲料がうつに悪そうなのはかなり確からしいです。糖分による炎症反応や神経を栄養する因子の減少などにより、うつに悪い方向に働くという生物学的メカニズムとも一致します。


飲酒(ほぼ確実にリスクを上げる↑)

Li J, Wang H, Li M, Shen Q, Li X, Zhang Y, Peng J, Rong X, Peng Y. Effect of alcohol use disorders and alcohol intake on the risk of subsequent depressive symptoms: a systematic review and meta-analysis of cohort studies. Addiction. 2020 Jul;115(7):1224-1243. doi: 10.1111/add.14935. Epub 2020 Jan 16. PMID: 31837230.

〈ひとこと紹介〉コホート研究のメタアナリシス。アルコール使用障害、多量飲酒それぞれにメタアナリシスを行い、いずれの場合もうつのリスクが上昇。

 

これは私にとっても残念な事実です。飲酒がうつのリスクを上げることは精神科医療従事者には常識ですが、なかなか一般の方には認知されていないのが現状です。かといって「お酒を一切飲むな」ということではないので、ご自身の判断で上手にお付き合いしていきましょう。


喫煙(リスクを上げる可能性あり↑)

Luger TM, Suls J, Vander Weg MW. How robust is the association between smoking and depression in adults? A meta-analysis using linear mixed-effects models. Addict Behav. 2014 Oct;39(10):1418-29. doi: 10.1016/j.addbeh.2014.05.011. Epub 2014 May 28. PMID: 24935795.

〈ひとこと紹介〉横断研究78本、コホート研究7本を含んだメタアナリシス。それぞれをメタアナリシスし、いずれもうつのリスク上昇という結果でした。日本人を対象とした研究も含まれています。

 

Chen HL, Cai JY, Zha ML, Shen WQ. Prenatal smoking and postpartum depression: a meta-analysis. J Psychosom Obstet Gynaecol. 2019 Jun;40(2):97-105. doi: 10.1080/0167482X.2017.1415881. Epub 2018 Mar 8. PMID: 29514549.

〈ひとこと紹介〉横断研究5本、コホート研究4本、症例対照研究4本を含んだメタアナリシス。日本人は含まれず。全てまとめてメタアナリシスしています。産前の喫煙を行うことで、産後うつのオッズ上昇したという結果でした。

 

喫煙でうつのリスクが上がるのは「なぜ?」というメカニズムの説明は意外に難しいため、「可能性あり」というやや保守的な評価としています。とはいえ「短期的にストレス発散になっても長期的には悪い影響の方が大きそう」というのはデータ上かなり確からしいです。